映画原人の穴

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【映画】「エレファント・マン」―違いはただ一つ―

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概要

 19世紀に実在した「エレファント・マン」ことジョン・メリックの半生を描いた作品。監督のデヴィット・リンチは当時、自主制作長編「イレイザーヘッド」によって大抜擢された新人であった。

 


あらすじ

 19世紀イギリス、医師のトリーブス(アンソニー・ホプキンス)は見世物小屋にいたジョン・メリック(ジョン・ハート)に興味を持ち、自分の勤める病院で保護する。
 当初は知能が低くコミュニケーション能力が無いと思われていたメリックだったが、実は聖書に親しみ芸術を愛する人格者だったことがわかり、それは次第に世間で評判になっていく……


感想

 この映画はジョン・メリックを主人公としているが、真に描かれるのは彼らを取り巻く3人の男たちであり、彼らの違いはほんのわずかであるが結果が全く異なり、まるで「バタフライ・エフェクト」のような作品である。3人はジョン・メリックと出会い、どう行動するのか。

 ジョン・メリックは3人の男たちに見世物の道具にされる。まさしく見世物小屋を運営するバイツ(フレディ・ジョーンズ)と、病院にて夜中に隠れて見世物ショーを催し小遣い稼ぎをする夜警(マイケル・エルフィック)。そして高貴な人々を招き入れて、メリックとの会話を仲介するトリーブス医師だ。

 バイツと夜警の違いには「ヤクザとチンピラ」理論が適用される。
 ヤクザ、つまりバイツは社会的に褒められた存在ではないかもしれないが、社会に適合できないメリックたち(フリークス)を保護し安定した生活を提供していることは確かだ。
 チンピラ、つまり夜警はバイツと比べると明らかに加減がわかっておらず、暴力的だ。バイツは一応プロフェッショナルであるため、それなりに興行についてのルールを持ちあわせている。しかし、素人の夜警はそういったルールが全くなく、無法状態になりがちなのだ。
 この二人を比較するとバイツの方がメリックの事をちゃんと考えていると言える。勿論バイツにとってもメリックは金儲けの道具に過ぎないのだが、終盤のあるシーンで、とてもさりげなくだが、バイツがメリックの事を少しは思っていて、関係がこじれたことを悲観しているように見える場面がある。

 一方、トリーブスはどうか、彼は直接メリックでカネ稼ぎをしたわけではないが、結果的に彼の評判は上がり、収入も増えたことだろう。では彼もバイツたちと同じ穴のムジナか?
 そんな事はないと思う。彼が一番尊重したのは自分の財布ではなく、メリックの意志だ。メリックに必要なものは何かを考え、それを真摯に実行したのだ。
 そうすることで、メリックは閉じ込めていた自分の可能性を成長させることができ、結果としてそれが人々の注目を集めたに過ぎない。

 普通の人間は、特に現代においては学生という長い期間の中で様々なものに触れ、様々な事に挑戦し、その過程で自分に合った職とか諸々を見つけていく。
 19世紀の頃はそんな余裕はなく、人々は自分の生まれた土地や家族の職に縛られていた。そしてメリックの様なフリークスたちはもっと悲惨で、自分の身体的特徴で見世物小屋以外の「普通の」職の道を閉ざされてしまっていた。

 この映画のジョン・メリック(実物とは結構差異があるそうだ)は、そういった人間の「可能性」の象徴だ。そして3人の男たちはその「可能性」を左右する「環境」の象徴となっている。
 バイツと夜警のもとに居ればメリックは期間の違いはあれど結局使い潰され、ボロ雑巾のように死んだことだろう。彼らは「自分本位」でしかなかった。
 トリーブスと彼らの違いは、トリーブスが「メリック本位」だったことだ。彼は孟子の母親(孟母三遷の教え)のようにメリックのことをよく考えていた。それが夜警を引き寄せることにもなってしまったが、それよりもメリットの方が大きかった。

 現実には覆しようのない事がどうしても起きてしまう。しかし、それに対しどう対応するかは千差万別で、結果もまたしかり。
 それは、奇形として生まれたのが真の問題ではなく、それに対する周りの反応こそが一番の問題であることを気付かせてくれるのだ。

 この映画は、デヴィッド・リンチが監督しているという事もあり、フリークスを悪趣味にとらえたものに過ぎない、という評価も多い。確かにそういった側面もあるかもしれないがそれよりも、やはり彼らをみた普通の人々の反応に細かな演出が入れられていると思った。特にウェンディ・ヒラ―演じる婦長は実に人間的で、メリックを理解した後でのラストの演劇鑑賞の際の居心地の悪さがとても生臭い。

 

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