映画原人の穴

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【映画】「ハクソー・リッジ」―みんなが英雄!―

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概要

 いまやすっかりお騒がせスターと化してしまったメル・ギブソン。しかし、奴の映画人としての能力を貶す人間はいない。何故なら作ってきた作品の全てがエンタメ作品として一級品の出来だからだ 。
 今年、そこに新たな作品が加わる。太平洋戦争に武器を持たずに衛生兵として従軍した実在のヒーローをもとにした「ハクソー・リッジ」だ!

 


あらすじ

 デズモンド・ドス(アンドリュー・ガーフィールド)は幼年時代の兄弟喧嘩であやうく弟を殺しかけたことをきっかけに、強い信仰心を抱くようになる。
 彼が青年になった頃、第二次世界大戦が勃発し、周囲の若者はみな志願兵として戦場へ送られていった。ドスもまた愛国心を胸に抱くが、彼の信仰する宗教組織では暴力の行使、すなわち従軍を禁じていた。そこで彼は人を殺すのではなく、生かす役目を持つ衛生兵として参加しようと思い立つが……


感想

 メル・ギブソンの最新作というだけで話題作となるわけだが、題材はなんと太平洋戦争、日本対アメリカだ。これまで「ブレイブハート」「アポカリプト」で凄惨な「生の戦い」を描いてきたわけだが、国家対国家の総力戦である太平洋戦争はそれらよりも大規模で、かつ合理的な大量殺戮が行われた……不謹慎だが、期待せざるを得ない!

 とはいえ始まった直ぐ殺し合いというわけではない。今回はデズモンド・ドスの英雄譚なのだ。前半は彼が戦場へ行くまでの諸々を描き、彼がどういう人物かを教えてくれる。数々の英雄と同じく、彼もまた少年時代(覚醒前)は腕白だった。そしてその腕白ぶりが許容範囲を超えてしまったことで信仰に目覚めるのだ。息子ブッシュパリス・ヒルトンなどやらかした人は大体神に目覚めるのがアメリカだ。ちなみにメル・ギブソンは家に自らの教会をたて、神父(の真似事)をやっているという……。
 
 メル・ギブソンが信心深いカトリックだというのは有名な話だ。それは今までの監督作品を並べてみれば簡単にわかることだし、次回作はキリストの復活を描いた物語を構想しているらしい。
 メルギブは色々やらかして、神に目覚めてもやっていることは変わらないが、ドスは一度の過ちで完全に生まれ変わる。その変貌ぶりは「バタフライ・エフェクト」のある時間軸の兄貴を思い出す。
 ガンジーも驚くほどの非暴力主義者となったドスだが、全面戦争は彼の心にも影響を与える。自分も国の役に立ちたいと思うが、戦場に行くという事は人殺しになるという事。しかし、とあるきっかけで衛生兵として参加すれば暴力を振るわなくて済むと考え着くのだ。

 ドスの人格が濃厚に描かれるのはこの前編だ。彼の強み、それは「信念」であり、何があっても自分の信念を貫き通すのだ。そしてそれを応援する父親もまた前の戦争(WW1)を戦い抜いた強い信念で息子を後押しする。
 また、彼は惚れた腫れたにも強い信念で臨み、一目ぼれした相手に果敢なアタックをする。傍目からみればヤバい奴にしか見えないが、本人同士が幸せならそれでいいのだ。昔だったらトム・ハンクスがやってそうな役だね。

 そしてドスは無事出兵する。映画では沖縄戦のみが扱われているが、それ以前にもフィリピンなどで勲章モノの活躍をしているという。日本では「前田高地」、アメリカ軍からは「ハクソーリッジ」
と呼ばれる場所での戦闘がこの映画の後半戦だ。そしてこの戦闘シーンがたまらなく恐ろしいものとなっている。まず、日本兵がどこにいるのかわからず、アメリカ軍は周囲を最大限に警戒しながら進む。そして一瞬の油断をしたその時いきなり襲い掛かってくるのだ。そこからは一緒に訓練してきた仲間たちが無慈悲に次々と倒れ、米兵と日本兵の死体が積み重なるような地獄となる。ドスはこの中を救急バッグだけを持ち動き回る。
 敵か味方かよく分からない程混乱した戦場なのだが、不思議と観ていて混乱はない。確かにメルギブの手腕は抜群だ。メリハリが効き、迫力に満ち溢れた戦闘シーンだ。そして、その地獄そのものの情景を観ていると、戦争の不条理さ、無意味さを考えずにはいられなくなる。「そもそもなんでこの人たちはこんなに”必死”になって殺し合っているんだ?」って具合だ。
しかし、そこで戦う兵士たちは極めて英雄的に描写される。そして訓練時には皆と一緒にならないドスに不満を持っていた仲間たちも戦闘状態という危機的状況の中で急速に団結し、心が通じ合っていく。個々人が力を合わせる、という事を象徴的に、そして簡潔で見映え良く撮っていく撮影と編集も見事だ。
 また、米軍と日本軍は対比的に描かれており、ドスを筆頭に生き残り、家に帰ることを重視する米軍。つまり、彼らの最終目標は戦争そのものに勝利することだ。対して日本軍の最終目標は、米軍を一人でも道連れにして自分が死ぬことであると描かれている。そもそも玉砕命令って何の意味があるんだ?人も武器も圧倒的に不足しているのにそれを容易く捨てる命令が上から下るなんておかしいだ
ろ……。
 劇中日本兵は何度も負傷して隠れている米兵をぶち殺そうと探し回る。しかし、そんなことをしたって戦争の成果の足しにはならないだろう。米軍という大木のほんのわずかな小枝を大砲で叩き落すようなものだ。しかも、そんな死にかけ兵探しの過程で自分たちが何人も殺される。ミイラ取りがミイラになる様なものだ。この映画で描かれる日本兵は「御国の為に死ぬ」事は教わっても戦争の勝ち方は教わらなかったようだ。実際はどうなんだろうか。あと、日本兵の会話が何となくほんわかしていたのは魅力的だったね(「鍋食いてぇなぁ」とか)

 意味のある戦争とはどんなものか。例えばドスの父親がWW1を戦ったのは「優れた憲法によって安全に統治された我が国を守り、その自由と繁栄を守るため(たしかこんなん言ってた)」だそうだ。
兵士は命令に従うのみかもしれないが、その上の人たちは戦争の意味をしっかり考えてもらいたいものだ。カネを稼ぐには割に合わなさすぎる!