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映画原人の穴

映画を中心とした感想ブログです。ネタバレなしです!

【映画】「老人Z」―それはすぐそこまで来ている―

老人Z HDマスター版 [DVD]

 

あらすじ

 最新型介護ロボット「Z-001号機」が発表された。これは食事からシモの世話、娯楽や移動に至るまですべての動作を自律的に賄えるということで、介護における人手や施設の不足問題を解決できる機械とされた。
 その使用モニターに選ばれた高沢老人は有無を言わさずロボットベッドに組み込まれてしまう。ボランティアで高沢老人を介護していた看護学生の晴子は人間味のない無機質なロボット介護に違和感を覚え高沢老人をベッドから引きずり出そうとするが……

 


感想
 
 1991年製作。つまり2017年現在から26年も昔の作品となる。
 しかしその凄まじくハイクオリティなアニメーションと現代にも通じる物語によって全く古臭さを感じさせない、どころかむしろ真新しさすら感じさせてくれる、ジャパニメーションが躍動しまくっていた時代の風を感じる傑作だ。

 監督を担当した北久保弘之のはなしによると企画は飲み会で酔っ払いながら喋っていたことがモトとなっているという。それを勢いで製作してしまったのが劇場公開されたのだ。
 本編もその勢いを受け継いでいるかのような怒涛の展開を魅せ、ただの介護ベッドであるはずなのにまるで「最臭兵器」のような大災害にまで発展する。

 その介護ベッドの設定は動力源が内蔵された小型原子炉であッたり、自分でどんどん成長し暴走するバイオコンピュータなど、コメディ的な要素が多いのだが、現在では微妙に笑えなくなってしまった。原子力は言わずもがなで、自律成長するコンピュータなんて何時の間にか現実のものとなっている。
 
 そして現在の日本では介護労働者の劣悪な労働環境は有名であり、正義感にあふれる本作のヒロイン晴子でさえ、愚痴の一つや二つ、300は言いたくなるのが現状だ。介護ロボットの開発は超優先課題となっているのはいうまでもない。

 「老人Z」の問題提起は今を生きる若者にとって、「なにそんな悠長なこといってんの?」と感じるものかもしれない、現に私はこれを見て「そうは言ってもこうなっていくんだろうな」と思った。
 低賃金なうえに、魅力のない仕事内容(やりがいなんて誤魔化しだ)であるなら、誰だってやりたくない。
 今後、一般的な介護は全てロボットが担い、手厚い人肌の介護は一部の富裕層向けに限定される……そんな世の中は今や、ひどく現実的なのだ。


思ったこと

 アニメーターという仕事人たちは表舞台に出ることは滅多にないが、その仕事は役者と同義だ。そう考えると最近の日本アニメの凋落は見るに堪えない。
 少し前に「南鎌倉高校女子自転車部」というテレビアニメを見たが、まあ……ドイヒーな出来だった。全ての要素のクオリティが低い作品であったのだが特にアニメーションの出来が最悪だった。
 それはおおよそ『絵が動く』なんて口にはできない代物で、まさしく「紙芝居」と馬鹿にできるものだった。

 しかし、このレベルのアニメは幾つもある。よくこんなクオリティのものをテレビで流せるな、と感心するがそれはアニメ業界の人手不足が原因であり、なぜ人手不足になったのかというと、そこには信じられないほど徹底したコストカットが背景にある。

 まず”アニメーターと言えば薄給”というのはアニメ好きならだれでも知っている事実だ。先ほど「アニメーターは役者」と書いたが、それ程重要な仕事であるにもかかわらず月の収入が20万を超える人はまれだという。特に”動画”という役割を担うアニメーターは絵一枚ごとの単価で働いているというが、その単価は240円ほどだという。それでは月500枚もの絵を書いても月に12万程度の収入しかないという事だ。
 ”原画”という動画の上位の役割になると1枚ごとではなく、1カットごとの収入となる。1カットが短ければよいが、長くなったり、複雑でアクションであったりしても単価は同じだ。

 押井守岸本斉史などトップクリエイターたちが信頼するレジェンドアニメーター西尾鉄也(最近ではナルト及びボルトにおいて絵作りの軸を担う)も若い頃の苦労を語っている。風呂・トイレなしのボロアパートに住み、玄関のカギは南京錠だったという。それはもはや物置だ……
 何故アニメーターがここまで貧乏なのかというと、安すぎる単価が原因だ。実は手塚治虫の時代からほとんど変わっていないというのだ。物価スライドを無視した賃金は「アニメーターになりたい」という若者の夢を食いつぶすことで成り立っているのだ。
 さらにそれすら高い、という事で韓国のアニメスタジオなどにどんどん外注されるようになり、安かろう悪かろうの低クオリティアニメが量産されるようになった。
 萌えアニメブームによって深夜アニメが異常に大量生産される現代では”絵づくり”よりも”声優”が重視されるようになった。絵の生産コストは極限まで切り詰められるようになったのだ。
 特に動画が外注されまくったんだが、それにより日本の若手が動画で経験を積む、という機会が少なくなったし、単価も上がらなくなってしまったのだ。

 この「老人Z」はその様な問題が大きくなる前の作品だ。原画スタッフには現在のトップアニメーター達が大挙をなして参加していて、”絵が動く面白さ”を眼前に叩き付けてくれる。
 別に今のアニメがすべて悪いわけではない、例えば昨年大ヒットした「君の名は。」はアニメーションの素晴らしさが作品の評価をグンと高めている。細かな表情や仕草がとても丁寧に描かれているし、終盤の自転車のシーンは思わず息をのむ。
 しかし、問題点も浮き彫りになった。「君の名は。」で素晴らしい原画を作ったアニメーター達のほとんどは「老人Z」の時代から活躍していた人ばかりだ(どちらにも参加している人も数多い)。彼らの跡を継ぐことのできる若手はどれ程いるのか、育成できる環境はあるのか。奇しくも介護とアニメ、二つの業界の問題点を浮き彫りにする作品となった。

 

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プレミアがついているが主題歌がいいんだよな~