映画原人の穴

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【映画】「サウルの息子」―地獄は人が作るもの―

サウルの息子(字幕版)

あらすじ
 アウシュヴィッツ=ビルケナウ収容所。そこではホロコーストで出た大量の死体を処理するため、ゾンダーコマンドと呼ばれるユダヤ囚人で組織された特殊部隊があった。
 そこで処理に従事していたサウル(ルーリグ・ゲーザ)は偶然にも自分の息子と思われる死体を見つける。なんとか正式なユダヤの教義にのっとった埋葬をしようとするサウルだったが……

 

おすすめ
 カンヌ国際映画祭グランプリ、ゴールデングローブ賞外国語映画賞アカデミー賞外国語映画賞などなど……、この映画はものすごくたくさんの賞を受賞、またはノミネートされた。詳しくはwikiをチェックだ。
 ゾンダーコマンドという役割を担わされたユダヤ囚人たち……これまであまり表に登場することはなかった。2003年の「灰の記憶」という映画には出ていたらしいが。
 とはいえインディーワイヤーで「過去のどんなホロコースト映画にも描かれてない真実がここには描かれている」と評されたように、全く新たな側面から大量虐殺の真実を問い直す作品となっており、それが上手くいったとしてここまでの評価となったのだろう。

感想
 似たような経験をしたことある人は少なからずいるだろう。いや、別にホロコーストの片棒を担がされて、少しばかり処刑が延長された経験があるか、と言っているわけではない!たった一つのすれ違いで周りの人と気持ちがずれていってしまうことだ。

 主人公は息子(だと思われる)の死体を発見するが、それを異常な執着で埋葬しようとする。どれ位執着するかというと、厳しい監視の目を潜り抜けて解剖予定だった死体を持ち出し、正式なラビ(ユダヤ教聖職者)を探し出し、正当な祈りのもとで手厚く埋葬しようとする。

 それと時を同じくしてゾンダーコマンド達による収容所からの大脱出計画が進んでいた。何故ゾンダーコマンド達が仕事に従事しているのかというと、働いている限り死を免れるからだ。しかし、それにも限りがあり、最後は必ず処刑されてしまう。少しずつ火薬などを準備し、計画実行は間近なのだ。
 サウルもその計画に1枚噛むことになるのだが、彼はそんな事よりも埋葬することが大事なのだ。だから周囲の、脱出を成功させようとする人たちとの心の距離がグングンと離れていく。加えて、周囲の人々はまさしく生きるために必死になっているのに対して、主人公は既に死んだ者に執着している。真逆の事をしているのだ。

 それを強調するように、107分の上映時間のうち殆どはゲームでいうTPSの様なカメラワークで進行する。しかも焦点は常にサウルにあたり、周囲はぼやけているので、彼の表情を主に読み取ることになり、後は音響に耳を傾けるのみだ。
 そのサウルの表情は常に焦燥感がある。周りには何も言えず、しかも周りの計画から自分が徐々にズレていっているからだ。
 観ているこちらも絶え間ない手ぶれ撮影で焦燥感(吐き気)を催すが、彼に比べれば軽いものだ。

 この映画は一つの事に執着すると、他がおろそかになる典型だ。サウルの行動を称賛できない人は多いだろう。ひとりよがりの行動だからだ。周りの人間を少しも顧みていない。
 殺伐とした収容所で独善的な行動を続けるサウルを皆が見限らなかったのは不思議だが、いつかは殺される身という全員の共通事項がそれを許したのだろうか。
 
 処刑を目前にした人間の心情を見事に描いたのはドストエフスキーだったが(彼は処刑執行直前で中止になった事がある)、この映画のゾンダーコマンド達はそれ程の絶望を感じているようには思えなかった。それは脱出という希望があったからか、それとも無理に仕事に打ち込みそれを忘れようとしていたかは分からない。
 ラストはこの地獄が未来に語り継がれていくことを暗示している、と言われるが、どれ程過去の惨劇が文学化、映像化されようと、新たな惨劇がやむことはない。意味もなく、地獄はいまだに続いているのだ。

 

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サウルの息子(字幕版)
 

 


映画『サウルの息子』予告編